珍しく,教育系の本から原稿依頼が来ました。
自分が書ける内容ではないので,見送らせていただきました。

今回の依頼も電子メールでした。
若い頃は,封筒で届いていたものです。そうして,その封筒には「原稿御依頼」のスタンプが押してあます。そのスタンプを見ると,フッといい気分になっていました。

封筒の中には「諾否ハガキ」というのが入っており,諾か否かに丸をつけて返信します。
すぐに返事をした方が,編集の方にとって良いだろうと思っていたので,即座に「諾」に丸をつけて投函していました。

この丸を付ける「諾」ですが,どうも,「諾」に丸をしてはいけないのではないかと思うようになっています。
中国の古典『礼記』に次のように載っています。

父命じて呼べば 唯して諾せず

父親に呼ばれたら「唯」と返事して,「諾」と返事はしない
と言うことです。
この「唯」は,すぐに返事をすることです。
「諾」は,驚く無かれ「ゆるゆる返事する」と言うことなのです。

お父様に呼ばれたら,すぐに返事をしましょう。ノンビリとした返事をするのはいけませんよ,という意味です。

こういう事を知ると,「諾」には丸が付けられなくなります。
「諾」を消して,「唯」に直して返信するのが礼となるからです。

つまり,「諾」というのは,依頼者が「ゆっくり考えて良いお返事を下さいね」という気持ちを込めた言葉なのです。それを真に受けて,はいゆっくり返事しましたと応えたことになるのが「諾」なのです。

と,ここまで分かっても,もう諾否ハガキが届くことも無さそうですし,江部さんや樋口さんのような博識の方でないと,「唯」と直してもその意味が通じないでしょう。
漢字の文化がここでも一つ消えていっているように思えています。

--
この「父命呼 唯而不諾」のすぐ後には,閾(しきい)を踏まないという事が書かれています。
これも面白いところです。