薄い子供向けの算数の本です。
表紙の数字や記号を見ればわかりますが、小学校1年生程度の本です。

でも、タイトルは全く読めません。
タイトルが読めなくても、うすうす何の本なのかわかるというのは、まさに、算数文化のありがたさです。

この本、モロッコでの政府プロジェクトを進めている佐藤氏(日本標準)と会食をしたときに見せていただいたものです。
モロッコの本屋へ行き、いろいろと見ていたらこの本と出合ったそうです。
海外へ行っても本屋へ行くのは、日本教育人の血でしょうか。
私も、中国やカンボジア、ルワンダなどへ行きましたが、本屋が気になり出かけました。

佐藤氏の話によると、この本の発行元はモロッコでは無く、エジプトとのことです。
ですので、本の中身はエジプトの算数です。

表紙の一番上に、ひき算の式が記されています。
「4-55」です。
一瞬、「おやっ」と思いましたが、これで正しいのです。

エジプトはアラビア文字で文を書くので、右から左へと文字を書きます。
ですので、子供向けに式を交えた文を書くと、下のようになります。
「。たしまし出を題問と、?=4-55がんさ父お」
右から書くという表記のルールがあるので、表紙に出ている式も「4-55」なのです。
この方が幼少の子には自然なのでしょう。

実際、本の中を開くと、「 =50-55」となどと問題が示されています。
式も右から読んでいます。
ところが、個々の数である「50」や「55」は左から「五十」「五十五」と読みます。
これは、なかなか厄介です。返り点を打ちたくなります。
似たようなことが日本にもあります。
分数は下から読みます。国語の基本的な読みの流れに反しています。
2桁以上の数に接した子は、ちょっとした不可解さを持つことでしょう。

また、ひっ算の書き方も日本とは違っています。

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引くの記号を右側に書いています。
見慣れない私には不思議な感覚を与えてくれます。

では、モロッコも同じように式を右から書いているのかと言うと、そうではありません。
モロッコの式は普通に「55-4=」と記しています。
そのモロッコで、表記の違うエジプトの本が平然と売られています。
もしかしたら、モロッコでは出版文化があまり育っていないのかもしれません。

自国で出版できる国には、こういうニアミスのような本が出回ることが起こりにくいです。
自国の文化にあった本が多数で回り、そうでない本が駆逐されるからです。

明治初期の算数の本の一端をご紹介しましょう。
アラビア文字(1や2や3などの文字)が入ってきたばかりだったので、その右側に漢数字で読み方が記されています。

欧米の新しい算術に遅れまじきと知恵を出した日本人を感じます。
進歩したい。
進歩こそ文化。
前へ前へと押し進む精神が爆発的に急成長したのが明治初期です。

日本算数界の偉いところは、式やひっ算の表し方は輸入した通りにしていたことです。
これを日本は縦書きだから・・・と意地を張っていたら、大変な混乱が続くことになります。
文化の取り入れ方、その技術的センスも卓越していたのが明治初期の日本と思っています。

佐藤氏との会話は実に楽しく、時間が経つのがあっという間にでした。
良いひと時を過ごせました。