【横山験也のちょっと一休み】№.3299
『類語の辞典』で調べ物をしていたら、思わぬ発見がありました。
定規を使って線を引くと、スーッとしたまっすぐな線ができます。
これを直線といいます。
真っ直ぐな上に、勢いも感じられますが、書かれた直線に目が奪われることはありません。
ところが、時として、ズルっとなることがあります。
途中で、押さえていたはずの定規がずれて、直線がグニャリと。
すると、急に線に意識が向き、若干にらむような感覚で線を見て、「あっ」と声を上げることもあります。
この意識が高まるズルっとなってしまった線に、名前があることを、私は今日初めて知りました。
野口芳宏先生が推薦する『類語の辞典』で「線」を引いた時のことです。
見出し語として音「線」が3もあり、それぞれの意味が記されています。
・長くつづきたるすぢ
・位置及長さを有し幅及厚さなきもの
・表面上のくぎり
この3項目の用例が1ページ半にわたって出ていました。
どんな用例があるのか、端から眺めていたら、ガツンと来る何とも奇妙な用例と出くわしました。
◎引く時あやまりてわきへそれる線
不本意ながらグニャッとなってしまった線のことです。
「それはね、定規の押さえ方がイマイチだと起こる現象ですよ」と、ちょっと自慢気に辞書に言っていたら、それを「ぬすびとすぢ」「どろうぼうすぢ」と呼ぶとあり、恐れ入谷の鬼子母神でした。
ズルっとなった線を、なぜ、「盗人筋」「泥棒筋」、今風に言えば、「盗人線」「泥棒線」と呼ぶようになったのでしょう。
この辞書は明治末期の辞書ですので、当時の筆記具を考えると、鉛筆がまだ広まりつつある時代でしたので、用語としては、書き直すことのできない筆で書いてグニャリとなった場面が想定されていると思えます。
まっすぐに引いてあれば、線は塩梅のよい所となりますが、グニャリとなると一方にはみ出します。そのはみだした線を消すことができず、いつまでも残り、はみだし部分を見ては、「場所を取った取られた」と感じ、滑稽に「どろぼう」とか「ぬすっと」とか言っている内に、そういう名称になったのでしょう。
「盗人筋」
こういう大発見があると、気分が良いですね。
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「盗人筋」の話は出てきませんが、こちらの2冊には面白い算数の授業が載っています。
「分数の紙」は、とにかくわかりやすい教材です。
算数を幅広く学んでみたいという先生にお薦めです。
この本に登場するネコちゃん、可愛いです。