【横山験也のちょっと一休み】№.3557

本が無造作に積まれている奥から、長年、再読したいと思っていた本がひょっこり出てきました。
菊池寛の『明治文明奇談』です。
この本は若いころに神田の古本屋で購入したものです。表紙はしっかりついているのですが、中の表紙や奥付が無い状態でした。その分、安かったのだろうと思います。

この本、タイトルからして分かりますが、明治時代の文明開化における変わった話が記されています。
小学校の6年生で、その明治維新を学びますが、江戸時代と維新とを見比べる絵が表示され、どんな風に変わったかを子ども達が考えるわけです。
それも面白いですが、そこからは見えてこない、踏み込んだ面白さがこの本にはてんこ盛りです。

例えば、モールス信号を伝える電線が全国に張り巡らされ、一瞬で遠く離れたところに伝わるということが広がりました。その話を聞いて、何を思ったのか、遠い地で暮らしている息子に荷物を届けられると思い込み、くるんだ風呂敷を電線に結んだ人がいたとのことです。
また、汽車が駅に到着したときに、蒸気を出しているのだから、きっと喉が渇ているだろうと思い、汽車に水をかけた人がいたとのことです。馬だって喉が渇くのだから汽車だってと、思ったのでしょう。

また、明治5年に大久保利通がアメリカから打った電報は、4時間で長崎に到着しました。上海から長崎まで海底電線が明治4年にはすでに通っていたからです。しかし、長崎から東京までは飛脚だったので3日間を要したとあります。
笑うに笑えない奇談です。

その飛脚ですが、明治政府が出した東京-京都間の飛脚の費用が1か月1500両、年額では1万8000両となることに気が付いた人がいました。前島密です。これほどのお金を飛脚屋に支払っているのなら、そのお金で欧米の郵便制度を日本に作れば・・・と考えたのです。

時代の変わり目の面白い話から、新しい時代を切り開いていった素晴らしい話などが載っています。
※この本、「日本の古本屋」(ネット古書店)で購入できます。