スクーで,算数の話を4本しました。b8302
「1か9分の8は,1なのか,8/9なのか?」
「分母・分子から古代中国を覗く」
「世阿弥も分数を活用していた」
「形式分数って,なんだ」

どの話も面白く語れました。
そうして,最後に,
「日本最古の分数は神社への勅」
という話をする予定でしたが,ちょっと時間が来てしまし,お話しできませんでした。

その話を,ここに書き記しておきます。
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「日本最古」というのは,文献に残っている最古です。
それも,私が読んだ範囲です。
ですので,これからご紹介する分数より,もっと昔に記された分数が出てきたら,この話は第2位,第3位と,順次繰り下がっていきます。

私が発見した最古の分数は,『日本書紀』に出てきます。
天武6年(672年)の事として,ご覧のように登場しています。

己丑(つちのとの うしのひ)に,天皇の勅(みことのり)がありました。
神社の神税(かむちから=税金)は,
3つに分けて1つを神につかえるために使い,
2つ分は神主にわけましょう。

集められた税金の分け方が記されていたのです。

b8301この少し後に,もう1カ所,分数が出てきます。

乙巳(きのとの みのひ)に,天皇の詔(みことのり)がありました。
上戸(かみつへ)には,1町を与えましょう。
中戸(なかつへ)には,半町を与えましょう。
下戸(しもつへ)には,4分の1町を与えましょう。

宅地の分け与えで分数が登場しています。

途中,点々で省略しているところには,次のように出ています。
右大臣に賜う宅地四町。
直広弐より以上には二町。
大参より以上には一町。

分数が出てきた下戸は,わずか1/4町です。
「下戸」という言葉の持つ語感と,最後に示されている順序などから,
かなり狭い宅地なんだろうなと思います。

ところが,ところが・・・。
1町というのは,かなり広いのです。
どのくらいの広さかいうと,400尺四方の土地が一町なのです。
1尺は約30cm。時代が違えば寸法に多少の違いがあるかもしれませんが,
おおむね30cmと考えてみると,1町は1辺が120mの正方形となります。
120m×120m=14400平米です。
これを坪に直すと,4360坪ぐらいです。
ちょっと控えめに,4000坪としても,下戸はその1/4ですから,1000坪の宅地となります。
下戸は,漢字で見るより実に身分が高いと実感します。

天皇のみことのりには,2種類ありました。
「詔」と「勅」です。
「詔」は主に大臣に向かって出されるお言葉です。
「勅」は国民に向かって出される天皇のお言葉です。
宅地の方の「みことのり」は「詔」なので,下戸と呼ばれていてもとっても偉かったのです。
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こういう話をして,スクーの話をおしまいにする予定でした。
また機会があれば,お話をしたいと思います。
ご静聴,ありがとうございました。

※私の読んでいる『日本書紀』は岩波文庫の本です。とても,勉強になるいい本です。