【横山験也のちょっと一休み】№.3659

日本の子は欧米の子と比べると、計算が速い。
しかし、高学年になると考える力が弱い。

ずいぶん若いころに、こういった話を聞きました。
計算が速い理由は、大きく2つ。
1つは、日本語が数を覚えやすくなっている。英語のイレブンなどのようなイレギュラーな言い回しが無いのが日本語の良さです。
もう1つは、かけ算九九をしっかり覚えられる。日本語に九九の声があることが大きな要因です。

数や計算を欧米の子より早くマスターしているにもかかわらず、なぜ、高学年になると考える力が弱くなってしまうのでしょう。
これについて、考えたことがありましたが、下手の考え休むに似たりで、何にもわかりませんでした。
なにしろ、「考える力」が何を意味しているのか解らずに考えていたのですから、これは滑稽です。

その後、「式は英語の文法でできている」と知り、日本人は式を作る段階で、文法的な苦労が伴っていると分かりました。

高学年で困難を要する勉強の一つに、速さがあります。3つの公式があり、それをしっかり覚えて・・・となるのですが、それがなかなか覚えられず、「みはじ」などと円の中に文字を書き、上下でわり算、横同士はかけ算などと、早わかりのようなものを教えることもありました。

この速さの問題を日本語と英語でちょっと見比べてみます。(グーグル翻訳です)

猫が10秒間に200m走りました。この猫は秒速何mで走りましたか。
A cat runs 200 meters in 10 seconds. How many meters per second did the cat run?

かなり速い猫ですが、そういうことはどうでも、注目していただきたいのは、英語の赤文字の所です。
日本語の「秒速何m」が「meters per second」となっています。
このperは、記号で書くと「/」です。÷と言う意味です。

ですから、速さに馴染んでいない子でも、欧米の子は「mを秒で割ればいい」と読むだけでわかるようになっています。

これ対して、日本の子は可哀そうです。「秒速何m」と書いてあるために、まず秒速の意味を理解しなければなりません。すると、その秒速は「1秒間に走った道のり」というぼんやりした言い回しになります。式には程遠いです。そこから、さらに進み、道のりはこの場合200mだから・・・と、日本語としての筋を追っていきます。途中で分からなくなってしまう子がいても、それは自然です。直感的にわからない言い回しになっているからです。

これが、英語では「m割る秒」と読んだ通りに式を書けばいいですよと、問題文が表現しています。だから、欧米では「しっかり読めばいいのです」というアドバイスが成立します。

そもそも、式というものは、言葉で言い表していたものを簡略化したものです。その式を生み出してきたのが、ヨーロッパの人たちです。ですから、基本はヨーロッパの人たちが使っている言葉・文法が元になって、式の数や記号が並んでいるのです。
そういう式を、文法の異なる日本の子ども達も学びます。高学年になると文章問題で後れを取るのはまさに必然だったのです。

これをこのままにしておいてはいけないと思ってのことか、その昔は「m毎秒」という言い回しがあり、私も教わりました。
しかし、「毎」が何のことやらです。ほとんど効力ゼロでした。

でも、これを、「mパア秒」「パアは割る(パアは分数)」と新しい式に直結する用語を作り、それを「秒速」や「時速」を習うたびに教え、板書で示していけば、式を立てることがかなり簡単になります。

できれば、それすらもしなくていいようにした方がモアベターです。式が見えてこない「秒速」という表現を問題文から外して、下のように書いたらどうでしょう。

猫が10秒間に200m走りました。この猫は何パアで走りましたか。
A cat runs 200 meters in 10 seconds. How many meters per second did the cat run?

これなら、どういう式を立てればいいのか、直感的にわかります。万一、式を誤って書く子がいたら、「問題文をよく読んでね」と簡単な助言ですみます。
また、これまで使われてきた「秒速」と言う用語は、この「m/秒」や「km/秒」などをまとめて「秒速」と言いますと、上位概念用語として伝えれば大きな問題は生じません。

「時速何キロメートルですか」と問わずに、「km/時を求めましょう」と英語のように、式と直結するように問題文を書く時代が来てほしいです。

欧米の子より考える力が劣るという問題は、思考力の問題としてとらえていましたが、日本語の持つ問題とみなした方がよさそうです。「問題文の式化において、不自然な不利益を伴う用語がもともと入っているところが問題なのだ」と今はこのように考えています。この先も、少しずつ「問題文の式化の不利益問題」を考えていきたいと思います。

こういう話は載っていませんが、下の3冊には、算数の授業が楽しくなるアイディア教材が満載されています。ぜひ、お読みください。