【横山験也のちょっと一休み】№.3674
8月最後の日曜日。
「夢中で算数チャンネル」の収録会が開かれました。ゲストは親友の城ケ崎滋雄先生です。
城ケ崎先生は、今、算数の専科を担当していることもあり、5年生の難関、小数のわり算の楽しいアイディアを出してくれました。そのアイディアは「バンジージャンプ」です。
その演出を見ながら、何か、昔、小数のわり算でやった覚えがある…と思いつつも、それを全く思い出せませんでした。
これは、重症と思いつつも、数日後に、ふと思い出しました。
「小数点タネ!」です。
小数÷小数の筆算は、左のように、まずは小数点を移動します。割る数を整数にして、わり算を考えやすくするためです。
このようにしてから、わり算の筆算に進むのですが、その後、子ども達は大混乱を起こします。
どういう大混乱かと言うと、
・商につける小数点はどこか?
・あまりにつける小数点はどこか?
この状態を打破するために、意味をきちんと伝えるのですが、わり算の筆算は頭をフル回転させないとできません。すると、せっかく意味を知っても、それがうまいこと思い出せず、商とあまりの小数点でやはり混乱をします。
こういう場合は、頭にすとんと入るような演出をするのが一番です。後で少し書きますが、システム1が動くようにするためです。
当時考えたのは、「下が先、上が後を比喩的に表現できるものはないか」でした。ふと思いついたのが、理科の種まきです。根が先に出て、芽が後から出るからです。
そうやって生まれたのが、「小数点タネ!」です。
小数の上にタネの絵をかきます。タネと言うより、球根に近い形をしていますが、先生が「種です」と言えば、子ども達は種だと思ってくれることに甘えて、絵をかきます。
根と芽、先に出るのはどっちだと聞けば、「根が先」と答えてくれます。
「だから、最初の種に根が生えます」
「根は上に出るのか、下に出るのか」とばかばかしい質問もして、「下」と答えてくれるので、それを受けて、下向きに線を引き、矢印も付けておきます。
「根の次に出るのは?」と聞けば、「芽です」と答えてくれます。
「芽は後からでますね。だから、後の種に芽がでます。」
「芽は上に出るのかな、下に出るのかな」とここでも、ばかばかしいことを聞くと「上」と答えてくれるので、上に矢印をつけます。
こんな風にして、小数点タネに下向き、上向きの矢印を付けていきます。
ところで、なぜ、なかなか思い出せないところを、面白い比喩にするとよいのでしょうか。
まず、意味で小数点の位置を思い出すのは、脳の負担が大きいのです。一時は理解しても、脳をフル回転させて計算をしたときに、その理解をスッと思い出すには、意味に対する相当の慣れが必要です。慣れていない時は、負担が大きいということです。正しい理解はシステム2に収まるため、そこからの引っ張り出しに慣れが必要なのです。
ところが、そこを比喩で頭に入れていると、フル回転させて計算をしたときでも、脳から引っ張り出すのが簡単です。比喩が面白いため、システム1としてキャッチできる状態になっているからです。瞬間芸で出てきます。
要するに、わり算の筆算のような大変な作業中には、意味をいちいち考えさせて計算させるのではなく、機械的にチャッチャカ行えるようにした方のが良いのです。ただ、機械的にやっても困難箇所があるので、要所となるところに面白い比喩をセットし、システム1が働くようにするのがモアベターと言うことになります。
わり算の筆算の時に「立てる・かける・ひく・おろす」と機械的なやり方を教えても、そこをうまく越せない子がいます。困難箇所で立ち往生となるのです。そこに、「スイートポテト」という比喩を登場させるのと同じです。
下の本に「小数点タネ!」は載っていませんが、白い本に「スイートポテト」が載っています。どの本にも、面白い算数のアイディアがたくさん載っています。ぜひ、2学期にご活用いただけたらと願います。