【横山験也のちょっと一休み】№.3675

戦前戦後の算数教育の大家に藤原安治郎という小学校の先生がいました。専門は算数(算術)です。
古本屋で見かけて面白そうと思い購入したのが、藤原安治郎先生とのお付き合いの始まりです。読んでみると、実際に面白い。その後は名前に惹かれて購入していました。

他にもたくさんの算数の古本を読んできましたが、戦前戦後の頃の実践家としては、藤原安治郎先生が最高と思っています。その面白さが群を抜いているからです。

特に、有名な「座布団」の実践を簡単にご紹介しますが、この「座布団」の授業は子ども達のシシテム1に働きかけてから、システム2へ入り込んでいく展開になっています。進化教育学から見ても実に秀逸です。

その座布団の授業は、3年生(戦前)で学ぶ正方形・長方形の授業です。
授業の「始まりの題材」が「座布団」なのです。

発問は「座布団はどんな形をしているか」です。

四角だとはわかりますが、四角の中でもどんな形かと、突っ込んで考えたことがありません。
直感的に「正方形(真四角)だな」と思えます。
実際の藤原学級でも、そのほとんどの子が「正方形」と答えています。
何となく、そんな気がしてくるからです。

この「何となく」と思った時、頭ではシステム1が働いています。真四角か長四角の2択ですから、これはシステム1の好きな形です。座布団=真四角と感じ、脳も楽しい気分になります。

ところが、実際に座布団を見せると、驚くなかれ「長方形」をしています。
一方が長く、一方が短くなっているのです。(正式な座布団は長方形になっています)

子ども心に「なんでだ??」となります。
システム2を働かせようとしているのですが、「座布団=長方形」に関する経験知が無いので、わけは分かりません。こうなると、論理的に整合性をとりたくなり、子ども達の関心が急速にアップします。

そこで、藤原先生が説明してくれます。この説明も実に見事。模造紙に子供を座らせます。もちろん、正座です。昔は座布団の上で正座をするのが習いでした。
そうして、子どもの足に当たる所に線を引いて、正座の足の形を模造紙の上にとります。すると、これが長方形なのです。
ここで、先生は「座布団はそこに乗る足の形に合うように作られていますよ。正式の座布団は長方形なんです」などと教えるわけです。

実に面白い実践です。
ですが、今の時代に使おうと思うと、ちょっと厳しいかもしれません。
座布団の形を問うても、座布団の姿が多様になってしまって、この問ではうまく進まないでしょう。

でも、ちょっとひねって、家から座布団を1枚持ち出し、算数の授業の始まりに、「先生はお尻が痛いので座布団を持ってきました」と言いつつ、椅子の上に座布団を置き、座ります。座布団は教卓が邪魔をして、子ども達からは見えずらくなっています。
それから、「ところで、この座布団ですが、どんな形をしていますか。」と聞いてみると、藤原先生並みに授業が進むように思います。

座布団で引き付けて、論理的に座布団の形を説明したら、正方形も長方形もグッと身近になりますね。

座布団の話は載っていませんが、下の3冊の本も楽しい算数の本です。