先生に問われて,自分の意見を言うとき,小学校では手をまっすぐに上方に向かって挙げるのが一般的です。肘を伸ばし,指先も伸ばし,ピンと張って堂々と手を挙げてこそ,「さすが,日本の小学生」となります。「天井に突き刺さるように!」と気合いを入れて手を挙げるように促すことも,教室での大切な指導となっています。
  このような手の挙げ方は現代だけの独特の姿ではなく,戦前の小学生も同様にしていました。

  しかしながら,戦前の女学校では,肘を曲げて手を挙げるように教わっていました。
  この手の挙げ方をみていると,どことなく慎みが感じ取れてきます。自分に考えや答えがあっても,「私をさして!」「私に注目して!」といった,「我先に感」がありません。慎み深く,僭越ですが・・・という雰囲気です。
  明治時代より一つさかのぼった江戸時代には,殿様の前で自分から意見を言うことは基本的には許されていませんでした。殿様からの指名を受けて,初めて自分の意見を言うのが礼儀作法だったのです。どうしても,自分の意見を言うときには,体をグッと小さくして「お恐れながら・・・」と,申し出るのが一般的でした。
  こういった歴史が日本にはあるので,大人になると会議の場では小学生のような手の挙げ方をあまりしません。若いとき,職員会議で「ハイ!」とすっくと手を挙げたら,大先輩の先生方から苦笑がでました。「元気があってよろしい」というようなお言葉をいただきましたが,思い返すに,少々恥ずかしいことだったのです。

  この女学生さん,手の先を頭の頂より下にしています。なんとも上品です。
  頭を越えて手を挙げると,自分の姿が他の方々より大きくなってしまいます。「先生に見えるのでしたら,頭を越えない範囲で手を挙げることが,日本的な手の挙げ方ですよ」とこの女学生さんが教えてくれているようです。(画像は古書『作法要項筆記帳』より)

(この後,「指名を受けたとき」に続きます。これは,後日,書きます)