【横山験也のちょっと一休み】№.3304
無声映画の後、音声も出る映画が登場し、これは「トーキー」と呼ばれていました。
無声映画は「ムービー」として日本に伝わっています。「ムービーピクチャー」、動く絵の略語です。そのままでは分かりにくかろうと、日本語名を考えてくれた人もいて、活動写真、略して活動としても伝わっています。
「ムービー」はわかるのですが、「トーキー」は何のことなのでしょう。
東京から始まったから、トーキョーとなり、ちょいと小粋に「トーキー」かと、当時のこともよく知らないままに当て推量していましたが、音声の付き映画になったことから、「トーキングピクチャー」と呼ばれていたのが略されて「トーキー」として日本に伝わったと本に出ていました。
谷崎潤一郎の『文章読本』です。
続いて、「モガ」と「モボ」と出てきたのですが、今の人は誰もわからないでしょうね。
何の略なのかを書くまでも無い言葉の元の語を記すと野暮になりますが、書かないでいると後世には仇となり、誰にもわからなくなります。
昨年、ちょっと変わった辞典『家庭百科重宝辞典』を見つけ購入しました。手にすると面白く、パラパラめくりながらひろい読みをしていると、「マルクスボーイ」や「エンゲルスガール」が見出し語にあり、興味津々で読みました。「マルクスボーイ」というのは、「マルクス主義に関する二、三のパンフレットを読んだだけで、一かどのマルクス主義者になりすました気持ちになりその実、積極的に闘争するでもない、軽薄な青年のこと」です。
何度読んでも、見事な解説です。無駄がなく、映像が浮かび、当時生きていたら自分もそうなっていたようにさえ感じてきます。誰が書いたのだろうかと気になったのですが、雑誌の編集者が書いたようで、名前は出ていません。
「モガ」「モボ」も出ていたので、『文章読本』を読んだときにはなるほどとわかりました。こちらは「モダンガール」「モダンボーイ」の略です。
英語では頭文字で略すことがよくあるので、それを日本語でもやったのですから、略語自体もモダンです。マルクスボーイのような臨場感ある説明はありませんでしたが、「軽蔑的な意味を含んで用いられる」と、痛烈な一言が入っていました。
「正しく文学作品を鑑賞し、一行でも美しい文章を書こうと願うすべての人々の必読書」と『文章読本』のカバー裏表紙にあります。
正しく鑑賞できるようになりたいし、美しい文章を書けるようにしたい。
『文章読本』を手にし、裏表紙だけで満足していると、「文章ボーイ」と自分を呼んでしまいそうです。
『文章読本』、いい本です!
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