【横山験也のちょっと一休み】№.3444

「衣服は何のために着るのか。」
こんな問いが、『雲萍雑志』に出てきました。
こちらが考える暇もなく、すぐに解答が示されています。

「寒さを凌ぎ、暑さをいとわんがためなり。」

この答えを読んで、一番感じ入ったのは「いとう」という言葉です。
衣服のそもそも論の答えとして、「暑さ寒さ対策」というも確かにと思え、一つの趣を感じますが、そこに「いとう(厭う)」を用いているところに、深みを感じます。

「厭う」という使い方は、今はあまり見かけず、「労を厭わない」というぐらいの使い方が、せいぜいです。普段はあまり使わない言葉なので、ちょっと調べてみたら、類似する言葉として、「嫌う」が出ていて、「厭う」と「嫌う」の違いが示されていました。

「嫌う」は「相手を積極的に切り捨て遠ざける意」とあります。
自分から意識的に「あっちに行け!」と言っているのが「嫌う」なのです。

「厭う」は「好まないで避ける」とあります。
自分からは近づかず、自分が離れた位置に移動するのが「厭う」なのです。君子危うきに近寄らずなんていうのも、厭うの世界ですね。

夏の暑さ、つまり、直射日光を嫌って、「日光なんか、あっちに行け!」といったところで、どうなるものでもありません。日光はまんべんなく照らすので、遠ざけようがありません。
しかしながら、日光から離れることはできます。日かげに入ることであり、服を着ることです。

「寒さを凌ぎ、暑さをいとわんがためなり。」
言葉の選び方が実に素晴らしいです。

本は面白いです。

小学校の国語や言葉と言えば、野口芳宏先生ですね。
こちらの本もいいですね。

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