読売新聞の編集手帳です。
6月12日の号で『明治人の作法』が扱われていました。読んでいただけて,ありがたいと思っています。
この記事を書いた方が注目した「御分」ですが,今で言えば「貴方」に通じる言葉です。
でも,「自分」「貴方」では,文字から強く伝わってくるものがありません。
これが,「自分」「御分」と並ぶと,日本人の人間観が伝わってきます。
自分に「分」があるように,人にも「分」があるという,感覚です。人を大切にする感覚です。
この感覚,古事記や日本書紀,これらの書が出来る前に,日本を記した魏志倭人伝などからも感じ取れます。
「御分」は,「古来からの日本人らしい感覚」を上手に表した語なのだと私は思っています。
もちろん,「人様」という言葉が使われる現代にも通じています。
この「御分」という言葉が使われていたのは,室町時代です。
『三人懺悔冊子』や『太平記』で使われています。
太平記は戦記物なので,やたらと戦っています。
人を殺したり,腹を切ったり・・・と,当時の武士道が手に取るように分かります。武士道が好きな先生は,この本を読まれることをすすめます。かなりボリュームがありますが,面白いです。
太平記は,随所に迫力があります。その中で驚いたのは,街道で向こうからやってくる敵の騎馬を迎え討つシーンです。
馬の前足を斬り,返す刀で馬の首を斬り落とします。読んでいて,お見事!と思ってしまいました。でも,本当に斬れるのか,ちょっと半信半疑です。
馬上の武者には斬りかかったと書いていないので,きっと落ちて大けがをして,恐れも成して逃げていくのだろうと思っています。
戦いのおもしろさに加え,勉強になるのは,「恥の文化」「名誉の文化」です。
末代までの恥とか,武門の誉れとか,そういう感覚が随所に出てきます。
「敵」「戦」の存在が強いと,「恥の文化」が引きずられるように出てくるようです。
「恥をかかないように」とか「みっともない」という感覚です。
自分を見つめる思考です。自分がとっても大切なのです。
逆に「和」の存在が強いと,「人様」という感覚が高まり出てくるように思えています。
「ご迷惑をおかけしないように」とか「不快感を与えないように」という感覚です。
自分より人を見つめる思考です。人があっての自分です。
こちらが作法の世界です。
作法を通じて,歴史を読むのは,なかなか面白いです。