有田先生が遺された最後の企画『 今こそ社会科の学力をつける授業を』の刊行(2014.11)を記念して、
1)同書に収録のWebワーク「ずいずいずっころばし」
2)同書に収録しきれなかったコラム「私のコンブ修行(有田先生のコメント付)」
3)同書の執筆に携わった先生方からのコメント
をご紹介します。
有田式Webワーク「ずいずいずっころばし」
「教材の一番おいしい所から子どもに食べさせてあげないと」――有田和正
この「有田式Webワーク」は、「ずいずいずっころばし」という童謡を題材に、歴史授業(江戸時代の文化)を展開するものです。
この童謡の一番のおいしい所は「茶壺」の所です。
一番おいしい所には子どもの豊かな発想を引き出すきっかけが隠されているのではないでしょうか。
有田式Webワークは資料や解説を決まった順番に見せるものではありません。
子どもが興味を持った所から資料や解説を表示させるのです。
その上で一番おいしい所へと子どもを引き込んでいくのです。
(本書「有田式Webワーク(金川秀人)」より)
※2020年12 月 31 日の[Adobe Flash Player]提供が終了に伴い、同教材のご提供を終了いたします。
( https://www.adobe.com/jp/products/flashplayer/end-of-life.html参照)
本教材を活用した有田式Webワークの実際につきましては、『今こそ社会科の学力をつける授業を』p89~をご参照ください。
[寄稿・コラム]私のコンブ修業
教材・授業開発研究所のメーリングリストに掲載された大谷和明先生(教材・授業開発研究所空知支部)のコンブ修業についてのレポートとそれに対する有田先生のコメントです。追究を目指す教師の姿勢とそれを支持する有田先生のお言葉が光ります。
その1 情報収集はできるだけ実踏するべし<人は先入観にとらわれやすい>
◆有田先生のコメント
わたしたちの盲点をついた面白くてためになる論文である。
海藻といえばすべて有用なものという固定観念がある。いわれてみれば「なるほど」と思うが、いわれないと気づかない。森の中にも、有用でないものがあるし、人間の世界だって有用でない人もいる。
こういうあたりまえのことを疑ってみることの大切さを大谷さんは指摘している。ここがすごいところである。
「石灰藻」なるものをみたことがあるが、表面がつるつるした感じで、色は結構美しく何かの役に立つのかと思った。漁師に「これは何ですか?」とたずねたら「そんなことも知らないのか」という顔で、「困った海藻、消えてほしい海藻だ」といった。
「へー、これが海藻?」といったら、「驚くほどのものじゃない」といわれた。まあ、いうならば「軽べつ」されたわけである。
軽べつされても、たずねて、本当のことを知った方が得だとわたしは考えているので、別に気にならなかった。このことがきっかけで、北海道の四つの代表的な昆布を調べることになったので、何がきっかけになるかわからない。
浦河の海、昆布のとれるところ(三石昆布=日高昆布)に、井寒台というわずか500メートルのところでとれた昆布は特上で、普通の人は入手困難である。これをわたしは手に入れて食べてみておいしさに驚いた。
その2 漁師はきついよ<体験しなければわからないことはある>
◆有田先生のコメント
一読して感じたことは、「体験したことは強い」ということである。自信を持って書いている。「岡回り」というアルバイトを5年間もしたということに驚いた。「岡回り」という仕事内容は知っていたが、この言葉を初めて聞いた。同じように「沖止め」の内容やとりきめがあることは知っていたが、この言葉にも初めて接した。すごい内容である。体験した人しか書けないことである。
船から降ろされて干場(かんば)へ運ぶ仕事を「岡回り」ということを大谷さんの文で知った。干場というのは、小石と砂利を敷き詰めた昆布を天日で乾燥させる場所のことである。ここで、根を切り落とし、一定の方向にそろえ、表を上にして並べる。昆布にも、表と裏がある。葉の中央部がくぼんでいる方が表である。このことを知ったのは、昭和54年のことだから、随分昔のことである。日高三石昆布を干場に並べているのを見て、「何かおかしい」と思って尋ねたら、「表面を上にして並べているんだ」といわれ、びっくりしたことを思い出した。
昆布は、乾燥中に粘液を出し、小石などに付くことがあるので、少しずつ移動させるという。これを「浜寄せ」という。昆布は海藻をただ乾燥したものではない。「庵蒸(あんじょう)」という作業をしなければならない。日高三石昆布は、上から順に、特上浜、上浜A、上浜B、中浜A、中浜C、並浜A、並浜Bの8ランクがある。井寒台は、特上Aと決められている。
その3 ころんでもただでは起きない<体験に価値をつける>
◆有田先生のコメント
「一等コンブは、生コンブの時から一等昆布」という。そうだろうと思う。「井寒台」はとれたときから「特上A」だし、様似町冬島地品は「上浜A」と決めている。このことを大谷さんは、学生時代から体験を通して知っていたのだ。体験の強さが見える。
「これが一等?これが二等?」と聞きながら束ねる作業をしたというから、大谷さんは昆布を見ただけで「これが一等だ」とわかるだろう。こんな「見る目」がほしいものだ。
三年目で「干し場でちゃんとしたコンブを干す許可、つまり、免許皆伝である」と書いているので、コンブを見る目は確かなものだろう。
「素人だと、5〜6メートルを越えるコンブを平たく干すことはできない。」ということに、その通りだといいたい。大変な作業であることは、見ただけでわかった。
大谷さんは、「プロのオバチャンたちの技を盗みしながら、コッソリ一本、二本と選考を重ねた」というのだから、半端なアルバイトではない。「技をもったアルバイター」なのである。
わたしは、根室の昆布漁師の家で、「家宝にしている」という昆布を庭に広げて見せてもらったことがある。長さをはかったら12メートル以上あり、その長いことに驚いた。
さすが「家宝だけはある」と思った。二度ととれないだろう。
その4 人様が寝ている間も仕事をするからよい昆布となる<適条件下で加工する>
◆有田先生のコメント
今回も一読して「体験の強さ」を強く感じた。「体験した人しかわからないこと」を沢山書いている。しだいに内容の濃い文になってきている。
今回の内容で、一番驚いたのは、「前日にとったコンブを、沖合に沈めておく」ということである。こんなこと、聞いたことも読んだこともない。その日のうちに、浜に干すものと決めつけていた。いや、そういう話を何度も聞いていた。
考えてみると、すごく合理的なことである。沢山とれた時のコンブは干し場がない。だから、魚でいえば「いけす」に入れておくようなものであろう。
改めて、コンブは生き物であり、植物であることを認識し直した。植物だから「光合成」して生き、生長する。とって船に揚げ、網に入れてすぐに海に沈めておけば、岩に根がくっついていなくても、「光合成」することを知らされた。
太陽より風で乾燥させる方がよいコンブができるという。根室で洗濯物のように、さおに干しているのを何度か見たことがある。「なるほど」と大谷さんの文を読んで思った。
コンブの偽装は十分考えられる。何しろ、等級で値段がかなり違うのだから。製紙業のように、「みんなですれば恐くない」とばかりに、大手五社がそろって偽装していた。他にもまだ出てくるだろう
執筆者の感想・声
有田先生のお墓参りにいってきます。
このことをしっかりと報告してきます。
きっと、喜んでくださると思います。
(古川光弘)
待ちに待った書です。
多くの有田ファンの皆様が手にされることを願っています。
それだけの内容の本だと感じています。
(佐藤正寿)
すっごく素敵な写真に感動です!!
(福山憲市)
表紙に使われた写真は、2005年に網走で撮影したものだと記憶しています。子ども相手の授業で、流氷を素材にしたものでした。
有田先生には、写真を通して追究の仕方を学ばせていただきました。牧草ロールやジャガイモ畑、授業風景などの写真は、その代表例です。
(福嶋顕勝)
「いつまでも引きずっていたら、逮捕するぞ。常に前進するんだ。
私はいつまでもあなたたちをここから見守っているから。」
天国に行かれてからも、ユーモアたっぷりに私たちを叱咤激励してくれている有田先生のお顔が浮かんできます。
(德田洋広)
有田先生の著書、有田先生という人間 有田先生を取り巻く先輩、仲間
出会いがなければ、自分がここに書かせていただくなんてことはないなと……
改めて出会いのありがたさを痛感しました。
同時に自分の実践を分類、体系化することのむずかしさ、そして楽しさを味わうことができました。
(篠田裕文)
現在、セミナーでお話しさせてただく「俵原が選ぶ有田和正実践ベスト9」を考えているのですが、ベスト9に収まりきらず、その日ごとに順位が変動して困っています(笑)。
(俵原正仁)
今後も、有田先生の実践の継承と発展をめざしてがんばります。
(藤本浩行)